噂は信じる?それとも信じない?

 

突然ですけど皆さんは「豊川信用金庫事件」をご存知ですか?今から50年以上も前のお話です。

愛知県豊川市を中心に「豊川信用金庫が倒産する。」という噂が流れて、短期間に約20億円もの
預貯金が引き出されることにもなった、いうなれば噂が群集を操りパニックまで発展していった事件です。
さらに驚愕の事実なのですが、警察がこの事件を業務妨害として捜査していった中で突き止めた
噂の出どころが何とたった3人の女子高生の噂話がきっかけでした。

やっぱり噂なんて当てにならない、人から人に伝わる話なんて根拠なって有って無いようなものだと
そう思われるかもしれません。そんなあなたに今日はこんなお話をしたいと思います、これは私の
知り合いの知り合いから聞いた話なのですが...


ここはとある村、今となってはダム建設により沈んだ村で起きたお話です。

当時まだ子供だった私は祖父が暮らしているこの村に帰省していました。

やっぱり田舎の村ということもあってのどかな毎日、事件と言えば隣の山田さんがこけて怪我をした
程度でも村中の噂になるほど平和な村でした。

そんなある日、村の子供がどうやらコウモリに噛まれたみたいで泣いて家まで帰ってきました。
すると村人は深刻そうな面持ちで集会を開き、コウモリを討伐しに村中の人が大捜索になりました。

たかがコウモリ一匹に大げさだなと思いながらも周囲の真剣そうな雰囲気に押されて
そのまま私も捜索に加わりました。

そことでふと昔、祖父から聞いた話を思いだしました。
この村にはどうやら吸血鬼の伝説があるらしく西洋からきた外人さんが夜な夜な村人を襲っていたそうです。

とうとうその外人さんは村人を襲っている現場を抑えられてしまい火あぶりにされました。

けれど今でもその魂はコウモリに乗り移って人を襲うそんなお話でした。

幼いころならまだしもそんな噂馬鹿馬鹿しい、そう思いながら真剣にコウモリを探す村人を
横目で見ながら半ば呆れ気味に歩いていました。

「やっぱりここしかないか...」村人たちがあたりを捜索してたどり着いたのはもう廃墟になった屋敷でした。

すぐに祖父の話に合った外人さんの屋敷だとピンときました。
廃墟とは言っても案外作りはしっかりしているし外観から一日くらい
我慢すれば泊まれそうな雰囲気がありました。

誰も動かない膠着状態にしびれを切らして村人たちの静止を振り切って
私はつかつかと屋敷の玄関扉に向かっていきました。

たかがコウモリ、何をそこまで怯えているのか理解できない私は早く
こんなバカ騒ぎを収めて家に帰りたかったのです。

案の定、扉を開けた途端室内にいたコウモリたちが襲ってきました。
とは言っても小さなコウモリだし手で振り払おうとしたその時突然側方に突き飛ばされました。

何事かとあたりを見回すと祖父が私を突き飛ばしたみたいでした。
そしてコウモリを持っていた鎌で振り払っていました。

私は祖父に突き飛ばされたことに腹を立てていましたがそれから両親に連れられて
逃げるように村を出て、二度と村に戻ることはありませんでした。

こんな話を20年ほどして村がダムに沈むというタイミングで酒の席で知り合いに話しました。
すると知り合いは何か思い当たることがあったのかノートパソコンを開いて調べ始めました。

数分ほどするととある死亡記事が目に入りました。
それは祖父とコウモリに噛まれた子供が火事で焼死したという記事でした。

唖然とする私をよそに知り合いは続けました。

「これ多分狂犬病だな...」そうです、狂犬病さえ知らない田舎の集落では仕組みは
分からなくとも経験則から対処法が噂と言う形で伝わっていたのです。


あの時迂闊にも屋敷に入ろうとした私を祖父は助けてくれた、そして感染拡大を防ぐために私も
焼死させられないように逃げるように村を出たんだと今更ながら知りました。

どうでしょうか?人の噂も馬鹿にできないですよね。
デマであっても群集を惑わす大きな事件に発展しかねない、
デマのように見えて核心をついている。本当に大切なのは鵜吞みにすることでも
拒絶し馬鹿にすることでもないのかもしれません。
情報化社会が叫ばれる今だからこそ噂と向き合い真実と嘘を
選別することが正解だったのかもしれませんね...